会員の随筆


    「空の散歩」目次



    吉田和夫さん(山城高第4回卒業)の「空の散歩」をシリーズで掲載します。

 
ラストフライト  平成4年9月7日 
【プロフィール】
 昭和31年 9月  神戸商船大学(現・神戸大学)航海科卒業。
 昭和31年10月  日本航空(株)に航空士要員として入社。
            航空士を経て昭和41年ボーイング727型機機長、
            DC8型機機長、
 昭和49年     ジャンボ機(B747型)機長、操縦教官、主席操縦士、
 平成 元年 9月 運輸大臣表彰。飛行時間16156時間。
 平成 4年 9月 定年退職。 
   元、航空ジャーナリスト協会会員
    著書  「千客万来、ジャンボ機は飛ぶ」 朝日ソノラマ社
         「鳥人、後藤勇吉」 朝日ソノラマ社
         「沈黙の五秒間」  朝日ソノラマ社
         「遥かなる雲の果てに」 若き女性パイロットの死 創栄出版


インターナショナル・エアライン・パイロットの魅力
 
砂漠の上を飛ぶDC-8

 パイロット・ライフという言葉は退職後15年経た今日でさえ色褪せることはなく、新鮮な響きをもって筆者を若返らせ、ロマンの世界へ誘ってくれる。
普通の人々が経験出来ないような多くの国々や世界の人達を、この目で見る機会に恵まれたこと。更にいえば、乗員(運航)の出会いだけでもフライト毎にメンバーは変わり、大仰(オオギョウ)に言えば生死を共にした一期一会の仲間達に会ったことであろうか。
 飛行機が好きな者同士の連帯感と責任感を共有していることや、国内、国外を問わず、同じ釜の飯を食った間柄であることで、街で出会っても直ぐ飛行機の話に花が咲く。かって飛んだ飛行の辛い苦い経験や、失敗や成功を共有しているからだろう。
 
シドニー湾
 第2は、地上高く飛翔したとき眼下に広がる一大絵巻で、同じ鳥瞰図でも季節や昼夜の違いで様々な景観を見せてくれ、感動させてくれる。
 左の写真は東京より夜を徹して飛び、早朝、シドニー湾上空を空港に向け降下中に非番のパイロットがジャンボ機操縦室から撮影したもので左手にハーバーブリッジ、その少し上にオペラハウスが夏雲の間から見える。その右側に市街中心地のビル群やシドニー市街が上に向かって広がっている。
 上の写真は真冬、きらめく満天の星空の下、中近東の砂漠上空を飛行しているとき、悲しげに灯る小さな集落を見て、そこで細々と暮らす人達を想像したり、日中はその佇(タタズ)まいさえ見分けがたく、荒涼とした死の砂漠に変貌させて慌(アワ)てさせたりする。
 第3は遠い世界に筆者が直接触れることで、様々な生活文化や、風俗習慣を知って見識が深まったこと。
 第4は離陸後のはりつめた緊張感から解放され、雲や霧を突き抜けた後、燦々(サンサン)と輝く太陽を目にしたときの爽快感。
 第5は計画通りの降下進入が出来、正規の着陸ゾーンに、正確な速度で、スムーズに、接地した時の満足感。
 或るベテラン機長は、そういう時は滑走路が動かず、あたかも静止しているように見える時だと感想をもらしたことがある。
1年に1回あるかどうかの着陸感である。
 74年10月の或る日、福岡東京便(ジャンボ機)で羽田空港に着陸後、乗客の1人が筆者に手渡すようスチュアデスに依頼したメモ書きが今手元にある。その乗客は、「水色のワルツ」を作曲した著名な作曲家、高木東六氏であり、彼自身の手書きの跡があった。(06年9月死去)
     機長様
           素晴らしい着地テクニック、
           驚嘆いたしました。
           最近こんなステキな
           快適な着地感は味わったことがありません。
           益々ご健闘と御精進を祈りつつ
           右、お礼まで。 
                       
                高木 東六(作曲家)
 
B747
 この時が1年に1回あるかどうかの着陸であったかもしれない。こういう乗客はあとにもさきにもなかった。
 最後はメリ・ハリのある生活習慣が身についたことであろうか。それぞれ目的を持った多くの乗客を安全に目的地に運んだ後の飛行の達成感。
 精神の緊張と弛緩(シカン)の短い(4、5日〜7日)飛行サイクルは、生活感覚をいつも新鮮なものにして仕事に倦(ウ)むということはない。 
     
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空 の 散 歩 目 次


   路 線 名 訪 問 都市
@ 東南アジア路線   味覚の街、ホンコン
 灼熱の国、タイ王国・バンコク
 赤道直下の国、シンガポール
A 太平洋路線   「ウエーキ島」の残照・南十字星
 椰子の木聳えるオアフ島・ホノルル
B 南回りヨーロッパ路線   ピスターチオの国イラン・イスラム共和国、テヘラン
 ロマンの都、ローマ
C モスクワ経由ヨーロッパ路線    ペレストロイカ(改革)以前の首都、モスクワ
 花の都、パリー
 ロンドンと言えば大英博物館
D オセアニア路線   シドニーの街


 (2009.8.1 現在)        
回数 掲載日  路 線 名 航 路  訪問都市
 第 1 回 2008. 12.1 東南アジア路線 東京→高雄(台湾)→香港  ホンコン
 第 2 回 2009. 1. 1 東南アジア路線 香港→バンコク  バンコク
 第 3 回 2009. 1. 1 東南アジア路線 バンコク→シンガポール  シンガポール
 第 4 回 2009. 2. 1 太平洋航路 東京→ウエーキ  ウエーキ
 第 5 回 2009. 3. 1 太平洋航路 ウエーキ→ホノルル  ホノルル
 第 6 回 2009. 4. 1 南周りヨーロッパ路線 バンコク→テヘラン  テヘラン
 第 7 回 2009. 5. 1 南周りヨーロッパ路線 カイロ→ローマ  ローマ
 第 8 回 2009. 6. 1 モスクワ経由ヨーロッパ路線 東京→モスクワ モスクワ
 第 9 回 2009. 7. 1 モスクワ経由ヨーロッパ路線 モスクワ→パリ  パリ
 第 10 回 2009. 7. 1 モスクワ経由ヨーロッパ路線 パリ→ロンドン  ロンドン
 第 11 回 2009. 8. 1 オセアニア路線 東京→シドニー  シドニー


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